母の病気

ここ最近、目まぐるしく日常に変化がおきている。
まず、飲食店でのパートをやめて、官公庁の臨時職員に転職した。
そして、今年度から二年任期で長男の中学校のPTA会計~副会長に推薦され、引き受けることとなった。
そして時代は平成から令和に変わり、母に癌が見つかった。
スキルス性の胃ガンのステージ4で、腹膜や腸、骨にも転移していて、手術もできない状態で、何もしなければ、余命4ヶ月との宣告を受ける。

今は、抗がん剤治療を続けながら、様子を見ている状態。
母は、終末に向けての準備を始めており、遺産分与のこと、葬式のこと、仕事の引継ぎなどに余念がない。
先日は、戒名も授かった。
幸い食欲もあり、仕事にも出られていたが、一週間ほど前から、腹痛を訴えるようになってきた。
負けず嫌いの性格なので、仕事には這ってでも出るが、帰宅したら倒れ込むように横になっているそうだ。
先週末は、私と娘二人で実家に帰省した。
母の仕事場に顔を出して、食事を一緒にとり、帰るやいなや、母が腹痛を訴えたので、早めに寝かせた。
翌朝、5時頃に「腹が痛く寝られなかった。テルミーの先生を呼んで」と携帯電話を差し出す母に、言われるままに先生の電話番号を押した。
すると、30分ほどして先生が到着。
テルミーとは、薬草を燻して身体にあてていく民間療法で、数年前から母がお世話になっている。
しかし、先生も、小さなお子さんが4人いる一家の母親である。
朝の5時に叩き起こされてはたまらない。
私も、電話をしたのは軽率だったなと反省。
案の定、予定があるからと6時半には帰った先生に、「用事が終わったらまた来て」と訴える母。
「本当に痛いのなら、病院にいこうか」と提案した私に対して、「そこまでしなくていい」と母が言うので、私はその日、予約を入れていた美容院に行くことにした。洗濯をして、朝食を作って子どもたちに食べさせたら、台所を念入りに掃除し、床や壁などの拭き掃除をした後、美容院に行った。
母は、横になってうとうとしていて、自分のカードを渡してくれた。
帰りにバナナを買ってきてほしいと頼まれた。
美容院に到着して一時間も経たないうちに、母から電話があり、「おなかが痛くて我慢が出来ない。今から、テルミーの先生がきてくれるから、救急病院まで送ってもらう」とのこと。
驚いた私は、救急車を呼んで行くように言いたかったが、そこは母の知り合いの美容院で、病気のことは言うなと言われていたので、何も言えずに頷いた。
急なことだったので、娘二人は実家に置いたまま。
私は、パーマ液をつけたばかりだったので、余程のことがない限り、美容院を出られず、そのまま施術をしてもらった。
カット、パーマ、カラーで4時間。勧められたトリートメントやヘッドスパは断って、なるべく急ぐように訴えて、13時半には実家に帰宅。
その間、娘たちに母から三回も電話がかかっており、「ママはまだ帰らないの?」と執拗に聞いてきたらしい。
初め、その美容院を勧めてきたのは母で、「あそこはすごく上手だけど時間がかかるからね」と言っていたので、時間がかかるのは知っているはず。
それに、テルミーの先生が付き添ってくださっているなら、私がいっても仕方ないし、人気の美容院で、知り合いなので、迷惑もかけられないし、私も予定をキャンセルして時間を捻出して帰省しているので、なかなか普段、白髪を染める暇もない。
病院に行ったなら、後は医師の診断に任せるしかないではないか。
それなのに、終わって電話をすると、恨みがましく、「なんで途中で辞めて帰ってこなかったの?」と恨み節を言われた。
診察が終わったというので迎えに行くと言うと、「今日はイベントで渋滞してて、とてもここには近づけないし、あんたの運転は怖いから結構」と言われ、立つ瀬もない。それなのに、「友だちに迎えを頼む」などと言うので、「身内がいるのに他人に迷惑をかけるのもいい加減にして。渋滞してるのは同じだし、休日だし。私の運転が嫌なら、タクシーで帰ってきて」と懇願して、ようやくタクシーで帰宅した母。
帰るやいなや、「何で四時間もかかると?途中で止めて帰ってくればよかったのに、ひとりで待合室で待たされて情けなかったよ」とか、美容院のレシートを見ては、「何でこんなにかかると?」と涙声になる母。
「カットとパーマとカラーとロング料金しかかかってないよ」と答えたが、この美容院が高額なのは母も知っていたし、自分が払ってあげるからここに通えばいいと言ってくれたのも母だった。
「だったらもう、ここには通わないよ」と言うと、「またそんな極端なことを言う!旦那さんも、あんたのそういうところが嫌いって言ってあるやろ?」と私を非難。
でも、昔から母はそうだったということを思い出すのにそう時間はかからなかった。
そうやっていつも、私を悪者にすれば気が晴れるらしかった。
結婚する前は弟と私を比べ、結婚すれば弟嫁と私を比べてこき下ろす。
病気になったから少しは素直になるかと思いきや、性格まで変わるということはないのだなぁとつくづく実感した。
私のアドバイスを聞かずにすぐに病院に行かなかったこと、美容院にいっておいでとカードを渡してくれたにもかかわらず、何故帰ってこないとか高額だとか、矛盾しすぎている。
要は、娘の幸せより、自分のプライドが大事な人なのだろう。
この期に及んでまだ、母との和解が出来ないことに、がっかりした。
とりあえず、私は、母に頼まれていたバナナを置いて、冷蔵庫にはすぐ食べられるうどんとスープ、すりおろした山芋、薩摩揚げと柔らかい豆腐を入れて、娘たちと自宅に帰宅した。
私も、自分の幸せを優先しようと思う。
我が儘な母に振り回される人生に終止符。
母からの心無い非難にいちいち傷つかない。
理不尽な仕打ちを受けたら、法でも何でもふりかざして戦ってやる。
今まで理不尽に傷つけられた分のお返しだ。
遺産相続も、弟に随分多くいくようにしているようだ。
孫は平等とばかりに、孫には一定額ずつ振り込まれたが、土地も家も不動産のすべてを放棄するように言われた。
理由は、長男で跡継ぎだからということだ。
墓守りと家業の継承分ということだが、口約束だけで、財産の開示は無し。
鬼のような人だ。
母親だけど、残念な人。
私はそれすらも受け入れて、自分の人生を全うしなければならない。